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ピアノソナタ第26番 「告別」 変ホ長調 op.81a
2017-02-08 Wed 13:07
Part 5. Sonata in E Flat, opus 81a no. 26 'Les Adieux'

第6回目プログラムの最後の曲「ピアノソナタ第26番 「告別」 変ホ長調 op.81a」のレクチャー内容です。講義時間は27分です。ドイツ語には全く詳しくないですが、第1楽章の原題Lebewohlという言葉には、また逢えるかわからない・再会を約束されていないお別れといったニュアンスがあり、なおかつ誰か特定の人に対して1対1のお別れの時に使う言葉なんだそうです。それと、ルドルフ大公について調べていた時に読んだ、彼宛のベートーベンの手紙が、まさに友達という感じの距離感で素敵だなぁと思いました。さておき、途中で何度も何度もピアノを弾きながら説明されているので、出来れば音源を聴いてもらえるとわかりやすいと思います。





「嬰ヘ長調のop.78はベートーベンにとって、とても大切なソナタでした。そして次にご紹介するop.81aは”les adieux”と呼ばれますが、さらに良い響きを持つのがドイツ語原題の”Lebewohl”です。これは非常に重要な作品で、ベートーベンのお気に入りの生徒で親友でもあったルドルフ大公のために書かれました。ルドルフ大公はとても能力の高い音楽家・作曲家で、それはベートーベンがこれまでに彼のために書いた数々の名曲を見れば判断出来ることですね。(演奏)ピアノ三重奏曲第7番「大公」または、最後のバイオリンソナタ。(第10番の冒頭演奏)あとはミサ・ソレムニス(荘厳ミサ曲)ですとか・・・いくつかありますが、いずれにしても評価していない人のために作曲などしないと思います。そしてこのソナタが書かれた1809年。ナポレオン軍がウィーンへ進駐し、ローマ帝国皇帝フランツ1世と共に、ルドルフ大公もまた亡命せねばなりませんでした。それから、このソナタが書かれた日付は1809年5月4日と正確にわかっています。」

「さて。この作品はベートーベンソナタの中で唯一の表題音楽です。しかし、そうったことを抜きにしても素晴らしい音楽ですから、タイトルに縛られすぎない方が良いとは思います。例えば交響曲第6番の・・・(演奏)ベートーベンはここで”Mehr ausdruck der empfindung als malerei“-絵画的表現というよりもむしろ、音に感情をのせて-と発言しましたが、つまりそれが交響曲第6番に対する彼からの指示だったわけですね。そしてそのモットーは、この作品にも当てはまるのではないかなと思います。・・・とはいえ、この作品の背景には物語があります。それは空想ごとではなく実際に起こったお話です。そして、それぞれの楽章にはタイトルがつけられていますね。第1楽章は「Das Lebewohl」またはFarewell(お別れ)、「Abwesenheit」またはabsence(不在)とつけられた第2楽章、そして「Das Wiedersehen」あるいはreturn(再会)とつけられた最終楽章です。」

「このモチーフから始まり(演奏)3つの間隔。それは2台のホルンが奏でているように・・・これは、明らかにホルンの音色ですね。そして彼は"Le-be-wohl"という風に表現しています(ベートーベンが最初の3音の上にそう書いたそうです)・・・さよなら。(節をつけて演奏)しかしこの最後の音で何が起こるかというと、バスが偽終止と共に加わります。(演奏)本当に美しいですね・・・。ベートーベンが、がっかりとして悲しんでいる様子がうかがえます。なぜなら、普通ならこういう感じです。(演奏)ですがそうするかわりに・・・(演奏)としたわけですから。そして・・・(演奏)なぜどうして、といった風に。こういった音楽には前例があり、ヨハン・セバスティアン・バッハの初期の作品のひとつが、このように始まります・・・(演奏)カプリッチョ『最愛の兄の旅立ちに寄せて』。ベートーベンはこの曲を知っていたんでしょうか?親愛な誰かの旅立ちと共に、その身を案じている・・・という物語です。とにかく、最初のレーベヴォールのあと、既にバスは半音階的な下降をみせます。こういったものを18世紀にはパソス・デ・リウスクルスと呼びました。(演奏)

悲劇や危険の到来を知らせるような、重いパッセージですね。(演奏)またレーベヴォールがあり・・・(演奏)ですが、彼がここでどう進めるか聴いてください。(演奏)ここから本当の意味で導入部が始まります。『熱情』とは違い、ゆったりとした序奏部分が主題へと導いていきます。まずはじめに、この『レーベヴォール』・・・別れのモチーフは様々な変化と共に、楽章全体に渡って出てきます。そしてこの大いなる期待感の後、アレグロが幕を開けます。(演奏)新しい主題のようですが、バスは・・・(演奏)『レーベヴォール』の転回形ですね。(演奏)次はバスが・・・(演奏)そしてソプラノが・・・(演奏)転回形です。そして全てはここから来ていて(レーベヴォールのフレーズ演奏)短調で演奏すると・・・(演奏)・・・ここで再度・・・(演奏)と、今度はその縮小形・・・より小さな音価で。(演奏)そして導入部の反復です。ということで、この楽章が表現しているのは、ベートーベンの願いです。行かないでくれと、引き止めたい想いですね。」

「それから展開部です。(演奏)まず『レーベヴォール』があって(演奏)バスには・・・(演奏)アレグロから来ている8分音符の動機です。とても興味深いですね。極めてコンパクトに、これら全てが短期間で起こりますから。(演奏)それからまたしても、それは解体されていきます。こうあったところから・・・(演奏)最後には、2音だけが残されます。(演奏)最も小さな『元素』までバラバラに出来るなんて。(演奏)そして反復し始めたところで、私達は突然また頭に戻っていることに気づきます。(演奏)そしてその後、非常に詩的なコーダがあり。(演奏)音楽全体がレーベヴォール動機の中に漂っていますね。音楽の詩的イメージについては、あまりあれこれと憶測を述べたくありませんけれど、このケースにおいては許容されるかなと思います。なぜなら、大公は飛行機で旅をしたわけではありませんから。またそれは列車でもなく・・・馬車の旅です。私には蹄の音が聴こえます・・・(演奏)そして、ここはまた素晴らしいですね。まるで一方がそこへ佇む中、馬車はどんどんと遠ざかっていくかのようです・・・丘を越えて。それからここでベートーベンは、ほぼ不可能な注文を出します。(演奏)長い『ド』の上にあるクレッシェンドです。しかしピアノで(単音に)クレッシェンドは無理ですね・・・あくまで彼はそう求めていますけれど笑 ですから、やれることと言えば・・・ここで立ち上がるくらいです、たぶん笑 でもそれでは少し安っぽい演出ですね。(演奏)・・・そして、大公は行ってしまいました。」

「第2楽章は「Abwesenheit」不在です。素晴らしいメランコリーの描写です・・・その想い・・・(演奏)ということで、ハ短調ですね。歩く速度の楽章ですから、またしても遅すぎないように。(演奏)そしてハ短調の曲ですけれど、ベートーベンはハ短調コードから即座に離れますから、それで私達を不安な気持ちにさせるわけです。それと共に、ご想像できるかと思いますが・・・この動機・・・(演奏)wo_bist_du・・・『・・・君はどこに?』 私はいつもこの問いかけを想像するんです。(演奏)語りかけるように、叙情的に。(演奏)ほとんどバロック音楽のようですね・・・すごくそういう感じがします。バッハやヘンデルのレチタティーヴォのようですね。そしてこの後・・・これは非常に短い楽章で、ワルトシュタインや熱情と同じく各楽章ごとの締めはなく、このまま最終楽章へと導いていきます。主要部分の反復が2回あり・・・その後やっとドミナントへ到達します。ハ短調・・・」

(演奏)

「ということで、このメランコリックな第2楽章『不在』が変化し、突然の"Return(再会)"・・・大公が戻ってきます。そしてどういうわけか・・・『時』は圧縮され一瞬の出来事のように、全第2楽章『不在』はほんの2分程度しかかかりません。しかし、ここで表現されているのは数か月、数年にも渡る不在です。ですが大切なのは、この信じられないほどの喜び。ふたりの友が分かち合う喜びです。これは、ふたりの人間の間にある非常に深い友情であり、とても感動的で・・・芝居がかったところなど、ひとつも見あたりません。それにしてもベートーベンはこの『喜び』をこれ以上ない簡潔さで表現しています。それはトニック、ドミナント、トニック・・・(演奏)6小節です。それから左手へ移り・・・(演奏)そして3つ目の変奏はオーケストラ全体で!(演奏)」

「あと、みなさんこちらはご存知ですね(『皇帝』をちょっと演奏)これもまた、ルドルフ大公に捧げられた曲です。”les adieux”(第26番)の数年前のことですね、ピアノ協奏曲『皇帝』は。そしてこれ(第26番)はオーケストラパートのないピアノ協奏曲のようなものだと思います・・・彼らがいなくて本当によかった(と冗談を口早に言って演奏)そしてここは、まるでウィーンの教会の鐘という鐘が全て鳴り響いているかのように。(演奏)これはちょっとした変奏で・・・(演奏)それから、この”iambic” 強弱格ですね。(演奏)またしても、こうした音形は『皇帝』協奏曲から、そのままそっくり抜け出してきたかのようです。」

「それから、極めて短い展開部が続き・・・(演奏)たった3音。興味深いのが・・・この展開部は、ずっと『ピアニッシモ周辺』で演奏されるということです。(演奏)ここは美しいですね・・・彼は声部のバランスを変えています。上声部にあったものが、低音域で・・・(演奏)このたった3音を使って、とても複雑な通模倣様式であるディミニューションやストレッタを用いています。(演奏)これはサブドミナント上での再現部にみせかけた部分ですが、そこから2小節すぎると・・・(演奏)と、ここで本当の再現部があらわれるわけですね。では、この展開部全体を演奏してみましょう。ほんの1分くらいですから、おしゃべりはなしで。(演奏)・・・とこれで作品的には終わりですが、このソナタはとっても詩的な作品ですので・・・(演奏)『エピローグ』へと続きます・・・コーダです。(演奏)メノ アレグロですから、ゆっくり目の動きですね。そしてそれは、このソナタ全体の冒頭『レーベヴォール』を思い起こさせますね。ホルンが聴こえてきますので。(演奏)それから変奏・・・(演奏)もうひとつの変奏があって・・・(演奏)そしてこう終わります・・・(演奏)」


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