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ピアノソナタ第24番 嬰ヘ長調 op.78
2017-02-06 Mon 20:00
Part 3. Sonata in F Sharp Major, opus 78 no. 24

第6回目プログラムより「ピアノソナタ第24番 嬰ヘ長調 op.78」のレクチャー内容です。講義時間はあっさりと15分程度です。途中で何度も何度もピアノを弾きながら説明されているので、出来れば音源を聴いてもらえるとわかりやすいと思います。



「ピアノソナタの最高傑作(第23番)を書き上げたベートーベンですが、そこから次の作品まで実に4年ものギャップがあります。(この当時)個人的な難しい問題もいろいろとあり、特に健康面では失われていく聴力による問題が増える一方でした。しかし、にも関わらず4年後の1809年、彼は素晴らしく真新しいソナタ「嬰ヘ長調 op.78」を発表します。そして、この作品はテレーゼ・フォン・ブルンスヴィック伯爵令嬢に捧げらましたが『彼女こそがベートーベンにとって、不滅の恋人だったのではないか』という多くの推測がこれまでに立てられてきました。誰か別の方だった可能性もありますけれどね。しかしいずれにしても作品をみれば、このソナタが『愛の告白』であるということは明白だと思います。この作品は彼のソナタの中で最も叙情的で、また(先ほどお聴きいただいた)ひとつ前のソナタとは極めて対照的な曲想をもって書かれています。こんなにも異なるふたつのソナタ(熱情とテリーゼ)が同じペンから生まれたとは想像しがたいですよね。」

「嬰ヘ長調という調性は既に極めて独特です。なぜなら『♯6つに変化記号6つ』ですから、現代の感覚でも複雑な調性です。それから当時の出版社は、アマチュア演奏家達に新しい作品をどんどん売り込むことで頭がいっぱいでした。そして、多くのアマチュア演奏家は♯が6つもついている作品は少し手に余るなと思っていたと思います。ところでハイドン作曲の美しい弦楽四重奏曲があって・・・(ラルゴの出だし演奏)op.76の5番です。この緩徐楽章が嬰ヘ長調なのですが、ドイツ語ではこれを”Friedhof quartet”-墓場の四重奏と呼ぶんですよ・・・(ダブルシャープのことを指して)十字架がとてもたくさん出てくるので。(会場大うけ・・・)」

「ということで、このベートーベンソナタは極めて非凡。また、周りの評価を気にして作曲した作品ではありません。そもそもop.54のようなコンサート・ピースではありませんし、そこまで認知度も高くなく、聴衆受けもそこそこの作品ですが、ベートーベン自身はこの作品を大変気に入っていました。彼がとても怒って『なぜみんな嬰ハ短調ばかり好むんだ!』と発言した、と以前お話しましたが(演奏)・・・覚えていますか、これですね・・・そして私はこの作品を『月光ソナタ』とは呼びません。月光の曲ではなく嬰ハ短調ソナタですから。それで、ある時ベートーベンは『みんな私の嬰ハ短調ソナタのことばかり大騒ぎするが、嬰ヘ長調の方がよっぽど素晴らしい作品だ』と言ったそうです。」

「アダージョと記された4小節(序奏)から始まり・・・(演奏)ファ♯の上にペダルポイントがあって、それからこの素晴らしい旋律が入ってきます(演奏)ですが、私達が(この4小節を)また耳にすることはありません。本当に素晴らしい美しさで、私なら喜んでまた聴きますけれど・・・その機会は訪れませんので。それから彼は、美しい『アレグロ マ ノン トロッポ』を開始します。(演奏)『熱情』とは違い、提示部が両パートとも繰り返されます。そして大きなドラマ展開こそありませんが極めて叙情的。喜びと優しさに溢れ、ベートーベンの違った一面をみせてくれます。ベートーベンは単に『熱情』『エロイカ』『交響曲第5番』といった風な曲のみではなく、優しさや叙情性も表現することが出来る作曲家だったということですね。そして、私達はこのことを決して忘れてはいけないと思います。それから、これは非常に野心を感じるソナタですね。なぜならこれら各々の性質・パーツは非常に易々と繋げられているように見え・・・そしてリズム的には4分音符の動きです。(演奏)それから8分音符の動機が出てきて(演奏)そして3連符。(演奏)動機的には、私が今止まったと同時に・・・(演奏)常にこの3音です。(演奏)そして序奏のアダージョも・・・(3音強調して演奏)序奏は私たちに(この動機の)『分子』を与えるんですね・・・のちに重要になってくる部分の『原子要素』を。」

「それでは展開部へ進んでみましょう。(演奏)私には、これがベートーベンの書いた中で最も美しい旋律のひとつに思えますし、なぜ彼がこのソナタに特別な親しみを持ったのかということがとてもよく理解出来ます。みなさんにも『熱情』の後のこの時期が『後期』との境界線に位置するということが感じられると思います。全ては徐々に濃縮され、AからBへ移るために彼が必要とする時間はどんどん短縮されていきます。それから、この展開部全体が主要リズムによって奏でられていますね。(演奏)常にこの、タン パパン タン パパン。ですがまたしてもオーケストラの異なる楽器を割り当てるがごとく、それぞれ異なった音域を使っています。」

「さて。このソナタの第2楽章は最終楽章でもあります。2楽章構成のソナタということですね。そしてそれは意図的なものです。未完成なソナタというわけではなく・・・つまりシューベルトのロ短調 交響曲(7番)のような感じとは違い、ベートーベンはこの作品が2楽章構成であることを望みました。そしてこの楽章は、悲劇あるいは叙情的ということですらなく、しかしユーモアのある楽章です。こんな風に・・・(演奏)ええと・・・もちろんご存知の・・・(演奏)そして彼もこれを良く知っていて・・・変奏曲も書いていますし(ルール・ブリタニアによる5つの変奏曲)・・・どちらが先に書かれたのか私は詳しく知りませんけれど・・・偶然の一致ではないということですね。(演奏)常に短い動機の中で繰り広げられる質問と回答。そして次に・・・(演奏)と、これらはほんの2つの音をスラーで繋げたものですね。これらは厳密なアーティキュレーションで演奏しましょう・・・むしろ誇張するくらいの感じで。そんなわけで私はわざと短めに弾いていますが、私の思いつきではないですよ。なぜならシュナーベルはこのソナタを誰よりも上手に弾きますが、その彼もやっていますので笑 (演奏)

常にこの2音から構成される挿入があり(演奏)ですから、ソプラノから最初の2音を抜き出して(音価を)縮小してみると、こうなるわけです。(演奏)それが続き・・・(演奏)それから今度は反進行しているので、上昇音形だったものが・・・(演奏)今度は下降します。(演奏)・・・そして嬰ニ長調まで来ました。なんておかしな調でしょう。(演奏)それからさらに新しいモチーフとして、ご存知『マンハイム・ロケット』 (いくつか例を演奏)ということで・・・(演奏)この大小、長調・短調といった素晴らしい変化・・・(演奏)いつも私達が予想もしなかった不協和音が出てきて、それから2音のスラーで挿入されていたモチーフは徐々に長くなり、このカデンツァに至ります。(演奏)ソナタ形式とロンド形式のコンビネーションですね。ここではサブドミナントで主題が現れ・・・などなど。そして最終の・・・(演奏)今度は別の音域です。(演奏)それとレガート。(演奏)クエスチョンマークがあって・・・(演奏)もうひとつ・・・(演奏)そして最後は・・・(最後まで演奏)非常に愉快で風変わり、なおかつとてもオリジナル。予想通りという部分がまるでない作品ですね。」

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