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ピアノソナタ第18番 「狩」 変ホ長調 Op.31-3
2017-01-29 Sun 08:37
Part 3. Piano sonata in E flat major, opus 31 no. 3

第五回目プログラムより「ピアノソナタ第18番 変ホ長調 Op.31-3」のレクチャー内容です。この曲の講義は約16分と短めです。ところどころ(日本語として伝わりやすいように)本質から逸れない程度、言葉を足すことになるかと思いますがご了承ください。途中で何度も何度もピアノを弾きながら説明されているので、出来れば音源を聴いてもらえるとわかりやすいと思います。



「Op.31の最後を飾るのは変ホ長調の作品です。Op.31中唯一の4楽章構成で、ベートーベンの書いた最後の4楽章制ソナタでもあります。非常に素晴らしい作品だと思いますし、ひとことで比喩するのが困難な曲ではありますが・・・もしト長調ソナタを『愉快でコミカル』、ニ短調ソナタを『暗くドラマチック』とするならば、このソナタは『柔らかで抒情的』かつ、ちょっとしたユーモアが下地となっている作品、といえるでしょう。

(第1楽章冒頭フレーズ演奏後)なんて面白い始め方でしょう。サブドミナントの五六の和音で始まります。この曲は変ホですが・・・トニックではありませんね。(ハーモニーの比較確認)それと、問いの繰り返しです。ドイツ語で『Liebst du mich? リープスト ドゥー ミヒ』、すなわち do you love me? -愛してる? (ドイツ語・歌詞をつけて、もう一度冒頭を演奏)そして何度も何度も問いかけていますが、答えは・・・返ってきません笑 (演奏)さらなる問い・・・(演奏)・・・ここでやっと答えの半分だけ返ってきました。(演奏)そして女性的終止。(会場はいつもどおり”女性的”という部分に反応して沸く)ということで・・・まず旋律的には下降の5度(演奏)・・・ですが、このソナタでは何をおいてもリズムに注目すべきだと思います。リズムがこの曲の主要部分だからです。(演奏)4分音符が3つ、そして付点付の2分音符。(ピアノの縁を叩いてリズムを示し)返答も同じこのリズムです・・・

(演奏) リズム・・・(演奏)クエスチョンマーク・・・(演奏)四六の和音・・・そして(演奏)ここでやっと『帰宅』したような感覚を得られましたね。それからこのように続いて(演奏)常にこの基本リズムですよ。楽章全体を通して出てきます。そして・・・(演奏)短調でまた・・・(演奏)異なる楽器のグループが聴こえませんか? ベートーベンは作曲する時、いつもオーケストラ風に捉えていたと思います。管弦楽器ですね。(演奏)ここは管楽器!(演奏)素晴らしいテーマですね。とても声楽的で『カンタービレ』です。そしてまたしても、注目すべきリズムが出てきました。(演奏)冒頭のそれとは異なっていますが、お気づきになったかと思います。その後は、技巧的見せ場が出てきますが、(この日に取り上げた)最初のソナタとは違って極めて自然な形です。(演奏)それから第二主題の変奏(演奏)・・・非常に美しい音楽ですね。それから次のテーマは(演奏)彼はここでメーターを変えていますね。音楽は小節線に逆らって、それまでの123123・・・から121212・・・という風に、ヘミオラに満ちています。(ヘミオラ)・・・といっても病原菌ではないですよ笑 (演奏)それから提示部の最後は(演奏)伴奏はこのように(リズム強調演奏)という風に徹底していますね。」

「そして展開部です(演奏)少し色彩を落として(演奏)ですが、またしてもティーカップの中の嵐。もともと重くしすぎる部分ではないですよ。(演奏)ここ素晴らしいですね、ここでベートーベンがしていること。(演奏)このモチーフが(演奏)バスへ移行します。この麗しいモチーフのアーティキュレーションをつけるには、あまりに重厚ですが・・・それでも彼は最善を尽くしていますね。(演奏)ここはマンハイム・ロケット(演奏)素晴らしい不協和音があって(響きを強調したあと、続けて演奏)それから私達が気づかないうちに、また冒頭のハーモニーへと戻ってきました。(演奏)そしてここでベートーベンは極めてシンプルに、自然な形で主要主題を紛れ込ませます。ということで、これでおおよその第1楽章は全てカバーしたと思います。」

「第2楽章はサブドミナントの変イ長調で、素晴らしく愉快な楽章です。スケルツォの・・・ユーモア溢れる16分音符の伴奏を左手に置いていますが・・・私としては、ここはバスーンに演奏させるのがいいと思います(演奏)その上を行くコラールは、非常にさりげないスフォルツァンドを含んでいます。(演奏)それからこのユニゾンです。合間の休符が『ポーズ』の役割を果たします。休符は、ドラマチックな瞬間をもたらしますが・・・と同時にとてもユーモアがあります。(演奏)まるで『度忘れ』を意図的に作曲したかのように。ええと、次はなんだったっけ・・・といった風にね。(演奏)『・・・わからなくなった・・・』 (演奏)しかし、また思い出します(演奏)そして、突然のフォルテシモが。(そのフォルテシモまで演奏) (笑いながら)ピアニッシモのあとフォルテシモですから、すごい衝撃ですよね・・・ベートーベンの時代には特に。今聴いても非常にショッキングですから。そしてここで彼は、音楽を新しい方向へ導きます。(演奏)鋭いスタッカートが指定されていますが、これらは木管楽器にとってむしろ自然な音です。それで先ほど『バスーンで』と言ったんですが、オーボエでも同じことが十二分に表現出来ますね。ピアノは・・・というと、適役さという意味では少し劣りますが・・・それでも私達は努力しないとね笑 それからとても重要なのが、16分音符に対して64分音符ということですから、わかりますよね笑(演奏)などなど。それから展開部、再現部・・・へと続くわけですが、シンフォニックなスケルツォ的性格を持つ、ソナタ形式です。」

「この作品は緩徐楽章を含まないソナタです。・・・しかし(第3楽章は)メヌエット エ グラッチオーゾですから、つまり非常に優美でエレガントなロココ楽章です。(第3楽章の冒頭を演奏)人は、これまで彼がいかに美しい旋律を書いてきたかということを忘れがちですが・・・この作品もまた、彼がその気になれば、その分野においても天才的技量を発揮するという適例のひとつだと思います。このメヌエットのトリオは・・・(演奏)このソナタがとても気に入ったカミーユ・サン=サーンスは、(このトリオを主題として)二台ピアノのためのバリエーションを書きました(ベートーべンの主題による変奏曲)。それから、トリオの後はメインの部分が戻って来て、そしてコーダですね(演奏)カランド・・・(演奏)カランドというのは途絶えていく様子ですから、だんだんと弱く。と共にだんだんと遅く。」

「それから次は・・・あるいは(前出の話題)チェルニーはこの楽章と思い違ったのかなと思いますが。・・・なぜなら、これこそが『ギャロップ』です。プレスト コン フォーコ 『炎と共に』 (演奏)6分の8拍子、極めて速いテンポです。それから、素晴らしく明るいギャロップですね。この曲は、シューベルトのハ短調ソナタのモデルとなっていると言えますが(D958第4楽章のさわりだけ演奏)シューベルトの作品の場合は、言うまでもなく『死の踊り』がテーマとなっていますけれど、こちらは対極的です。フランス人はこのソナタを la chasse 『狩』と呼びます。狩のモチーフがあるからです。(演奏)狩場のホルンやトランペットが出てきますね。それから・・・(演奏)非常に外交的で明るいソナタです。というわけで、Op.31-2ほど革命的ではないかもしれませんが、そうありたいわけではないのです。・・・ですから、ベートーベンが『これからの新しいスタイルや方向性』について書き記した時、主に第17番のことが頭にあっただろうと思います」
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