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ピアノソナタ第15番 「田園」 ニ長調 Op.28
2016-11-23 Wed 02:48
Part 4: Piano sonata in D major, opus 28 ('Pastoral')

第四回目のプログラムの最終曲は「ピアノソナタ第15番 「田園」 ニ長調 Op.28」のレクチャー内容です。この曲の講義は25分程度です。途中で何度も何度もピアノを弾きながら説明されているので、出来れば音源を聴いてもらえるとわかりやすいと思います。






「最後にご紹介するソナタOp.28、この曲ほど変わっている曲はありません。私達は『田園』と呼びますが・・・これもまた、ベートーベンのつけた名前ではありませんけれど、この場合は・・・大目にみても良いでしょう。笑 なぜなら、交響曲6番『田園』を思い起こしてみると(ピアノソナタ『田園』との間に)たくさんの共通点が見受けられますし、交響曲の方の『田園』はベートーベンがつけた名前ですから。しかし、それ(交響曲)についても、ベートーベンは”Mehr Ausdruck der Empfindung als Malerei“-絵画的表現というよりもむしろ、音に感情をのせた作品である-と発言しています。」

「ですが、ティンパニ演奏のような(第1楽章の)冒頭を考えてみると・・・(演奏)後で私達が耳にすることになる・・・(比較演奏)それから、バイオリン協奏曲でも同じようなティンパニ音から・・・(比較演奏)一方、ハンス・フォン・ビューローは、この前のソナタが『型どおりの単純な作品』と不平を言ったけれど・・・(13番の冒頭演奏)ベートーベンがそうしたければ・・・シンプルなフレーズではなく、10小節に及ぶフレーズだって素晴らしく表現することが出来るわけです。ということで10小節フレーズ・・・(演奏)・・・反復して・・・(演奏)・・・そして8小節フレーズ・・・また8小節・・・そして4小節・・・(演奏)と、これがこのソナタの冒頭フレーズです。つまり『10小節・10小節・8小節・8小節・4小節』・・・と『型どおり』という感じではありませんね。それから、主題の推移部分へと向かって・・・(演奏)弦四重奏のようにクリアな4声ですね。そして、その変奏・・・(演奏)さて、私達はトニックから遥か遠くへ来ました。(演奏)トニック(レ)・・・ドミナント(ラ)で・・・ドミナントのドミナント(ミ)です。そして第2主題へ・・・(演奏)今『嬰ハ長調』ですから、本当に遠く・・・五度圏で数えると・・・(演奏)・・・と(ニ長調を1歩目と数えた場合)6歩も移動しました・・・(演奏)・・・そしてこれ(演奏)行ったり来たり。

それで・・・このソナタの『形式についてのみ』述べた場合、前例にあるほど革命的ではないですが、サウンドについては・・・私からみると、まるでシューベルトのようです。(演奏)・・・ね?・・・(演奏)これらの内声・・・またしても『森のささやき』のようですね。そして私達は少なくともドミナントへ到着し(演奏)それから・・・ベートーベンは常に、ピアノに歌わせようとしました。打楽器ではありませんから。私達も本当に、頑張って歌わせなければならないと思います。(演奏)そして、収束部分のテーマも『田園』にとてもふさわしいと思います。鳥の歌ごえのようで・・・オーボエが演奏しているところが想像出来ると思いますよ。(演奏)・・・それからベートーベンは、これをオーケストラ風にしてホルンを加え・・・(演奏)・・・ここで導入部の反復。では、展開部へ行ってみましょう。(演奏)」

「展開部を開始するのはサブドミナント(ソ)・・・(演奏)・・・短調・・・(演奏)・・・しかし、ベートーベンは主題を終える前に左へ対位法を配します。(演奏)・・・と、ここは作曲上で言うところの『遠近法テクニック』で、ベートーベンは主題からの引用部分を徐々に小さくしていきます。最初はこんな風に・・・(演奏)4小節分ですね。それから今度は2小節分だけ。(演奏)そして、1モチーフのみ・・・(演奏)このモチーフの3音・・・♪ティーンタタタン タタタン♪それから反行系も出てきて・・・(演奏)これら全ては遠隔調の嬰ヘ長調です(演奏)・・・そして止まります・・・全ての音を使い果たしたように・・・(演奏)これらは全て1つのペダルですよ・・・フェルマータ・・・そして突然・・・(演奏)ほんの断片です。」

「エドウィン・フィッシャーが・・・いつもエドウィン・フィッシャーの言葉ばかり引用してしまうんですけれど・・・とても好きなので・・・それで、彼が言うには、ここでは輪になった大人たちが大真面目な話し合いをしていて、そこへ突如ちいさな子供がドアを開けて顔を覘かせるんです。そして、彼は大人たちの『静寂』が怖くて仕方ない。・・・(演奏)・・・・サイレンス・・・サイレンス・・・(演奏)そしてそれが終わると・・・(演奏)・・・ドミナント。 と、その後は(演奏)この素晴らしいアレグロに戻るわけです。残りは、だいたいにおいてわかりやすいと思います。ただこの楽章の最後はとても美しく・・・(演奏)ドミナントそしてトニック。非常にシンプルですね。彼はいつもこのティンパニを繰り返しています。(演奏)」

「次はとてもメランコリーな楽章(第2楽章)・・・二短調ですね。Op.28は4楽章構成です。最初の楽章はソナタ形式でしたが、今度は三部形式・・・ABA構成です。それから、ペダルと共に演奏した嬰ハ短調ソナタ・・・(14番の冒頭を演奏)・・・この響きを覚えていますか・・・(演奏)そして、この楽章はというと・・・今度は本当に『ペダルなしで演奏すべき楽章』です。笑 なぜなら、左がオスティナート(執拗反復)のセンプレ スタッカート”sempre stacc.”で・・・(演奏)それからその上には、コラールとマーチを足したような何か・・・(演奏)この2つを合わせると、素晴らしい『絵』が出来上がりますが、互いがきちんと独立している必要がありますね。そして、ここでペダルを使うことは本当に避けるべきです。(演奏)・・・クレッシェンドからスビト・・・(演奏)では、ペダルを使うとどうなるか。という例をお聴かせすると・・・こんな感じになります(演奏)・・・ひどいです。笑 何も伝わりません。ここはもっと、明晰に聴かせなければ(もう一度模範演奏)次の主題後半は、少しペダルを使ってもいいですよ。(演奏)これらの減七 和音の作り出す不協和音・・・(演奏)そして、戻り・・・(演奏)ですから、この音楽を『悲劇』とは表現しませんが『鬱々と』していますね。」

「中間部は、もっと明るくて幸せな感じの音楽です。田園的な性質の『鳥のさえずり』があって、ホルンが最初で、それに応えるのがフルートです。(演奏)ナイチンゲールのことをドイツ語で"Nachtigall"ナッフティガールといいますが、そのリズムに合わせるとぴったりいくと思いますよ。ですから・・・(♪ナッフティガール・・・ナッフティガール♪と言いながら模範演奏)そしてこの長調のエピソードの後は、短調が戻ってきて(演奏)さらに、ベートーベンの素晴らしい変奏テクニック・・・(演奏)ここが唯一、バスにレガート指示が書かれている部分です。(演奏)それから、この楽章のコーダは驚くほど素晴らしく、ナッフティガールが戻ってきますが・・・もうそこまで幸せな感じではありません。(演奏)非常に素晴らしい響きですね。最低音域と最高音域。ここで、ベートーベンの使っていたピアノを想像してみてください・・・彼のピアノには(現代ピアノのような)不必要なオクターブなんてありませんでしたからね。笑 そしてここで私達は『地上と天国』を思わせるような感覚を受けるわけです。」

「そして、その後は地上へ戻り・・・とてもユーモラスなスケルツォ(第3楽章)。単純明快な作りですよ。(演奏)弦四重奏のようですね。第1バイオリン、第2バイオリン、ビオラ・・・チェロ。そして、トニック・ドミナント・ドミナント・トニック。非常にシンプルですね。(演奏)それから5度上で・・・(演奏)重要なのは、8分音符2つはスラーで繋がっていて、4分音符からは離れていますから・・・(演奏)その差をちょっと大げさに(演奏)そしてその第2部は・・・(演奏)・・・フェルマータ・・・(演奏)非常にユーモラスで、まるで『やんちゃな感じ』ですね。そして続くトリオは、さらに面白くて。とてもシンプルな、ちょっとした踊りがあり(演奏)そして2つ目のフレーズは・・・(演奏)つまり、ひとつはロ短調、もうひとつは二長調へたどり着くわけですね。それから、ベートーベンはこの旋律を使って4種類の和声展開を披露します。(演奏)・・・それから・・・次は・・・(演奏)と、このように非常にシンプルな作りですが、このシンプルなモチーフを4種類の方法で調和させてみせるんです。そしてダ・カーポ、スケルツォ。(演奏)」

「フィナーレ(第4楽章)は、(ロンド)アレグロ・マ・ノン・トロッポです。そして再度、これが『田園ソナタ』であるという証拠を見ることになります。バグパイプ音楽です・・・スコットランド風のね。(演奏)しかし美しい旋律です・・・(演奏)それから、このスイングするような8分の6拍子。交響曲『田園』もまた、8分の6拍子ですね。(演奏)それから経過を挟んで・・・(演奏)第2主題です。(演奏)・・・変奏・・・(演奏)再度、オーケストラの総奏ですよ。(演奏)ロンドが回帰し・・・(演奏)美しい展開部ですね。とてもバッハ的で・・・それから、未来を示唆するような。ちょっと弾いてみますね。(演奏)・・・そしてここから・・・(演奏)と、こんな風に、シンプルな田園的音楽の中にも、非常に複雑なポリフォニー的音楽が顔を見せていますね。こんな感じで・・・(演奏)本当に美しいですね、これらの半音階。さて。この後は、最後の主題回帰があって、第2・・・最後の主題がトニック。それから、この素晴らしいソナタを終わらせる前に、ベートーベンは素敵なコーダを用意しています・・・非常に弾くのが難しい部分です。チャールズ・ローゼンいわく、ここは『アマチュアに対する嫌がらせ』だそうです笑 なぜなら、この部分以外は(アマチュアでも)十分演奏可能ですから・・・しかし、いきなりここで難しくなるんです。笑 ということで、終わらせてしまいましょうか。(演奏・・・拍手と共に終了)」

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この記事のコメント
Nekoushi さんへ
Nekoushi さん、お返事大変遅くなりました。汗
(旅行中なのですー)

>田園の方は気づいたら一緒にいるような感じというか…。

おー。素敵なこと言いますね〜確かに田園は
さりげない感じの曲ですね。。私にとっては…
きちんと聞いたことがなかったけど、シフさんの
レクチャーできちんと聞いて、好きになった曲の
ひとつです★

そして、ナッフティガール、特にリズム取りにくい
わけじゃないんですね笑 気付いちゃったから、と
言うの、まさにそうかも!です笑 レクチャーを
楽しくしようと色々考えたのかもしれませんね〜

そして最後のところは、やはり… "アマチュア
泣かせ" でしたか!笑 なるほど、それじゃ私は
聞くだけにしておこうかなと思います笑
2016-11-25 Fri 19:20 | URL | ゆにくあ #-[ 内容変更]
こんにちは。

ベートーベンのソナタの中でも、この『田園』は一番好きな曲のひとつなので、今回もとても興味深かったです。14番ももちろん好きですが、14番はしびれるような感じで、田園の方は気づいたら一緒にいるような感じというか…。

パートやフレーズをオーケストラの楽器に例えるというのは、イメージがつかみやすいし、想像が広がって楽しいですね。シフさんの演奏は、地味になりがちなこの曲から豊かな色彩感を引き出している気がしました。地味な演奏も結構好きですが。

2楽章のNachtigallのところ、相変わらずお茶目ですね!
その部分、リズム取りにくいというほどでもないのに、「Nachtigallのリズムに合わせるとぴったり行く」って…。リズムが似ていると気づいてしまったので、歌わずにはいられなかったんでしょうね。

この曲は、たまに練習してみるのですが、フィナーレのコーダが「アマチュアに対する嫌がらせ」というのは、ものすごく納得できます。他の部分も全然簡単ではないと思います(少なくとも私にとっては)が、最後の最後に挫折させられるのが何とも無念です。
2016-11-23 Wed 19:23 | URL | Nekoushi #RAa2TALo[ 内容変更]
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