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ピアノソナタ第13番 「幻想曲風ソナタ」 変ホ長調 Op.27-1
2016-11-21 Mon 03:21
Part 2: Piano sonata in E-flat major, opus 27 no. 1


第四回目のプログラムより「ピアノソナタ第13番 「幻想曲風ソナタ」 変ホ長調 Op.27-1」のレクチャー内容です。この曲の講義は25分です。ビューローの引用をする時に、一瞬シフさんの声に宿る『冷笑』をお聞き逃がしなく(笑 途中で何度も何度もピアノを弾きながら説明されているので、出来れば音源を聴いてもらえるとわかりやすいと思います。





「次にご紹介する2つのソナタは"Sonata quasi una Fantasia" 『幻想曲風ソナタ』と呼ばれています。これはどういった意味でしょうか? まず『ソナタ』という言葉が示すように厳格な形式美、そして『幻想』・・・こちらは想像力や自由な思想といったものと関連のある言葉ですから、それら2つのコンセプトが融合したもの、ということになりますね。それから、この2つのソナタ(Op.27-1&2)は共に1801年に書かれました。そして、片方(13番)はリヒテンシュタイン公爵夫人に献呈され、もうひとつ・・・後で出てくるハ短調ソナタはというと、こちらはベートーベンの書いた最も有名なピアノソナタで、ジュリエッタ・グイチャルディ伯爵令嬢へ献呈されました。

さて、ハ短調ソナタは最も有名な作品のひとつ。そして変ホ長調ソナタの方は、割と認知度が低めの作品ですが・・・これ(変ホ長調ソナタ)は実に不当に軽視されていると思います。なぜなら私にとっては、少なくとももうひとつ(ハ短調ソナタ)と同じくらい好きな曲ですし・・・それに、コンセプトや形式のあり方という点に限って言うならば、(変ホ長調ソナタの方が)より興味深いと思っています。ハンス・フォン・ビューローは、この作品に対してとても批判的で『ベートーベンの名にふさわしくない作品だ。どうしたらこんな杓子定規なフレーズを書けるんだ!』と。彼はそう言ったんですよ。」

(第1楽章の冒頭を演奏)

「まぁそうですね、4小節・・・シンプルな作りです。そしてトニック和音・・・(演奏)・・・と、このふたつの和音だけ。ですが、非常に美しく詩的でまるで『子守唄』のようです。速度的にはアンダンテですが、『アッラ ブレーヴェ』なので2/2拍子ですね。(演奏)・・・さらに続けて・・・(演奏)こんな風にトニック、ドミナントと何度も繰り返されたところへ新しい和音が出てくると、それは本当に大イベントです。(演奏)そしてこの部分を反復し、それから新しいフレーズへ。(演奏)ここで新しいな、と思うのは『響き』。とても豊かなピアノの音です。ベートーベンは両手の拳で音楽を書きましたから、後世代に登場するシューベルトのような『透明な響き』とは少し違います。ですが、素晴らしい豊かさです。(演奏)・・・そして次は何が来るでしょうか・・・(演奏)ここは素敵な和声進行です・・・変ホ長調から(演奏)ハ長調へ(演奏)全く違った『光』を感じますよね・・・『光』と『影』のような。(演奏)ここは3度の関係で、この関係はのちに極めて重要な点として浮かび上がってきますよ。

(演奏)・・・変奏・・・(演奏)確かに、4小節フレーズ以外出てきませんね。そして、元へ戻り・・・(演奏)さらに変奏。とてもシンプルです(演奏)変奏・・・(演奏)さらに変奏・・・しかし、ここで良い部分が始まりますよ。(演奏)変ホ長調作品の中のハ長調から始まった後(演奏)『アレグロ』と印された新しい部分が始まります・・・”Deutsche tanzen" ドイツ舞曲風なそれは、素朴な農夫の踊りです。(演奏)転調して・・・(演奏)ハ長調のかわりにハ短調(コード演奏)そして、変ホ長調へ戻ります。(演奏)今、変ホ長調の属七ですが、そこから元へ戻り(演奏)アンダンテ・・・(演奏)と、このように素晴らしい発想および構成で、とても革命的です。そして、ここからさらに『アンダンテ』の変奏が繰り広げられます。旋律をバスへ置き・・・(演奏)そしてそれが終わると、コーダ。(演奏)冒頭の2音を使ったモチーフ・・・(徐々に静まり)・・・1音のみになって・・・(演奏)そして休むことなく・・・」

(続けて第2楽章の冒頭演奏)

「まず最初の小節をみていただけると・・・これはアップビート/裏拍(から始まる曲)だとわかりますね。(時々カウントしながら演奏)そして(演奏速度は)『アレグロ』、インターメッツォ(間奏曲)のような感じです。とても薄気味悪い感じの作品ですね。・・・時代錯誤であることを承知で言えば、この楽章はシューマンを彷彿させます。シューマンの”Nachtstücke”(夜曲集)あるいはOp.12”Fantasiestücke”(幻想小曲集作品)など、つまり『夜の音楽』です。それからこれは、スケルツォ楽章というわけでもなく、むしろ間奏曲的な音楽です。またしても非常に単純明快な方法・方式で、単に3連符を使用しています。(演奏)さらに音域を変えて・・・(演奏)片手が上昇音形、もう片方の手は下降音形ですね。(演奏)共に同じハーモニーですが、両方を合わせると、とても暗い色の響きとなります。(演奏)・・・フォルテ!(演奏)

モルト・アジタート、とても興奮して気がはやる感じで、落ち着きや静寂の全くない様子ですね。中間部のスケルツォは『乗馬』を思わせ、馬たち(の足並み)が聴こえます。(演奏)常に『パパッ パパッ パパッ』というリズムです。その後は冒頭の音形へ戻り(演奏)ここでベートーベンは、シンコペーションのリズムでそれに変化をつけます・・・左手はスタッカートを拍に合わせ、右手のレガートは拍に逆らって・・・と・・・例の両手が揃わない類ですね。笑 (演奏)そしてここもまた、『アクセル(ペダルのことを言っています)』を踏んでしまったら、全て台無しになりますね。なぜなら、スタッカートとレガートの差が聴こえなくなりますから・・・そして、その差がとても重要なのです。(演奏)・・・と、奈落の底へ。とてつもない悲劇です。」

(続けて第3楽章の冒頭演奏)

「休みなしで、この素晴らしい『アダージョ・コン・グラン・エスプレッシオーネ』へ。変ホ長調からハ長調、そしてまた変ホ長調、それからハ短調、そして今が(変イ長調)・・・(演奏)本当に素晴らしい円ですね。(演奏)アダージョの3/4拍子ですから、1小節あたり3つずつ数えます。(1、2、3・・・と数えながら模範演奏)素晴らしい響きですね・・・まるで弦楽器のような深みがあります。それからこのソナタOp.27-1でも、いまだもってソナタ形式がひとつも出てきていません。この楽章も、壮大なアダージョのように始まりますが、完成されたひとつの楽章というよりも、実は最終楽章のための序章のような存在です。それから・・・(演奏)そして繋ぎの『橋』があり・・・(演奏)素晴らしい期待感を覚えますね。いったい次はどんな展開をみせるのだろう、と。このソナタは、たまたま「幻想曲風ソナタ」と呼ばれているわけではなく、即興的独奏(カデンツァ)といった『幻想的な性質』をきちんと備えています。まるで『皇帝』(ピアノ協奏曲第5番)から書き起こされたような、これ・・・(演奏)ソナタ曲の中から協奏曲が飛び出してきたような感じですね。そして今度は・・・」

(続けて第4楽章の冒頭演奏)

「(この楽章は)アレグロ。これはソナタとロンドの性質を混ぜたような楽章ですが、それでもこれを『ソナタ形式』とは呼びません。どちらかというと・・・ロンドです。ですが、エネルギーに溢れ、活力や溌剌さを感じる素晴らしい楽章ですね。ベートーベンは、ここでも4小節から成るモチーフを使っていますけれど、彼が意図的にそうしているとお気づきになったかと思います。このソナタは、あまりにも革命的な形式をとっているため、それとバランスを取るために明快な旋律構成にする必要がありました。さもなくば、(そんな複雑な形式は)考えられもしないですから。そして、後にご紹介するソナタ作品をみればおわかりになりますが、ベートーベン本人が複雑な旋律やアシンメトリーな旋律を書きたいと思えば、そのように表現できる実力があるのは明らかですからね。ですから、この『四角さ』はわざとなので、否定的要素として捉えるべきではないと思います。(演奏)大切なのが・・・左手の16分音符は、最初の4小節をノンレガートで(演奏)そして、レガートで!(演奏)つまり、導入部だけでもノンレガートとレガートという風に、異なったアーティキュレーションがあるわけです。」

「そして次に来る部分は、オーケストラ風の総奏(トゥッティ)。様々な楽器が出てきます(演奏)ここの音形はオーケストラっぽくありません、むしろピアニスティックです。またしても、ベートーベンの発案であり、これはモーツァルトやハイドンの音楽には見られなかった形です。(演奏)ドミナントに到着した後、非常に活力あふれるフレーズが始まります・・・(ギリシア神話の)ディオニューソス的に。(演奏)そして、ロンドの回帰です。ここは本当にギリシア劇場のようですね・・・みなが歌い踊っているような・・・。ニーチェの思想『アポローンとディオニューソスの対比』になぞらえた場合、これはまさしくディオニューソスの音楽だと思います。そして次は、バッハのフーガ的なものが中ほどに登場し・・・(演奏)様々なエレメントが出てきましたね。そして今は、変ホ長調のドミナント上ですけれど、最後ベートーベンがどのように主題を再現するかと言うと・・・(演奏)

そして再現部に移るわけですが、それが全て終わったところで出てくるのが(演奏)フェルマータで一度止まって・・・(演奏)それから、この素晴らしいアダージョが戻ってきます。(演奏)まるで、家へ戻ったような気分ですね。私達はこのフレーズを前に別の調で聴いているけれど、今回はそれが主調で聴こえてきたわけですね。これは私達のよく知っている素晴らしい感覚・・・『安全さ』です。(演奏)再度カデンツァ・・・(演奏)そして、コーダ。ここは『プレスト』と書かれています。前は『アレグロ・マ・ノン・トロッポ』でしたが、今はプレストですね。それから、ここのモチーフを見てみると・・・(演奏)上昇していく4度です。そして、先のソナタへと思考をのばしてOp.110と比べてみると(演奏)・・・フーガがあって(演奏)・・・とこのように、18年も前に(類似したコンセプトが)既に存在していますね。(演奏)そしてここは擬似的に・・・左手がシンコペーションを用いながら、真似をしていますので。(演奏)・・・そしてこれが、Op.27-1です。」
        
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