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愉快な鍛冶屋の謎。
2016-11-20 Sun 12:45
ゆにくあです。

今日の内容は、
ブロ友さんの記事「年たち過ぎ去り(フランス民謡)」を
受けた内容となります。よろしければ、先にそちらを
見ていただけると。

ご紹介するお話は、ヘンデルが1720年11月に発表した、
「ハープシコード組曲」の5番目の曲「愉快な鍛冶屋
という曲とフランス民謡「年たち過ぎ去り」が、あまりに
酷似しているので(笑) 「盗作したのはどっち?」という
トピックを巡り、紙上で口論したふたりの音楽家の話です。

ごちゃごちゃした内容だったので、久しぶりに頭を使い
ました。うまく説明できるといいんですけど・・・あまり自信が
ありません。笑

出典:「Notes and Queries 9巻」 p588
    A Dictionary of Music and Musicians (1900) edited by George Grove


***

<舞台>

「ミュージカル・ニュース」・・・(恐らく)新聞の音楽枠ページ。
                  担当編集者はM.N.

<登場人物>

アーノルド・ドルメッチ(1858 - 1940):フランス出身、イギリスで活動した音楽家
ウィリアム・H・カミングス(1831 - 1915): イギリス生まれのイギリス育ちの音楽家

ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル(1685 - 1759) ドイツ生まれ、主にイギリスで活動
ゲオルク・クリストフ・ヴァーゲンザイル (1715 - 1777)忘れられた音楽家
クレマン・マロ (1496か1497 - 1544)フランスの詩人

ウィリアム・クロッチ(1775 - 1847)イギリスの作曲家、オックスフォード大学 教授就任(1797)

さて。

1895年6月23日の紙上に、アーノルド・ドルメッチ(以下、
アーノルド)からの手紙が掲載されました。全ての発端は、
アーノルドさんがハガナット・ソサエティって場所で開いた
「古典フランス音楽」をテーマとしたコンサートでの出来事
です。

ちなみに、ハガナット・ソサエティというのは・・・
フランス革命近辺、「ベルサイユの薔薇」くらいの時代。
ルイ14世のやり方に不満をもっていた国民と革命軍による
襲撃を恐れた貴族や、教会関連の人達が、一斉に
イギリスへ亡命したんですね。その時にその人達が作った
「フランス人組合」みたいなのがハガナット・ソサエティ。

創立1718年だからヘンデルが生まれる2年前の話ですね。
で、その本拠地が今はロンドンにあって、NYとか各地に
支部があるみたい。良く知らんけど。

とにかく、フランス出身の音楽家アーノルドさんが、
そこでコンサートした時に、曲の合間のMCで

「そういえばさ、クレマン・マロ の『年たち過ぎ去り』は
実はヘンデルの『愉快な鍛冶屋』の編曲だからね~」

と断言したらしい。

クレマン・マロっつーのは、フランスの詩人で
一応「年たち過ぎ去り」の作詞した人、という
ことになっている・・・けど、文献をあたっても
マロの詩のリストの中に「年たち過ぎ去り」は
見当たらず、それどころか似たような文体の
詩もない。

ということで、実際のところは確証ないっぽい。

そして『年たち過ぎ去り』の作曲者はというと、
ゲオルク・C・ヴァーゲンザイル という人らしい。
良く知らんが、当時は人気者だったとか。


そして、そのコンサートをたまたま聴きに来ていたのが
地元イギリスの音楽家 ウィリアム・H・カミングス(以下、
カミングス)でアーノルドさんの「元ネタはヘンデル発言」
をすぐさま、地元の新聞社へ告げ口。お手紙を書きました。

「アーノルドのやろうが言うには、おたくがこの間書いてた
記事は間違ってるらしいですよ。アーノルドいわく・・・」と。

それをうけたミュージカルニュースは、その手紙の内容を
記事にしました。それで、その記事を読んだアーノルドが
書いた手紙。

「ミュージカルニュースの編集者様。
私のことが書かれていたこの間の記事、読みました」

抗議文。笑 昔は大変だね、なんでも手紙で。


「なにか、カミングスが言ったみたいだけど、
私はそんなこと言ってませんよ!! 私は、
ヘンデルが盗んだ』と言ったんですよ。
それをもっともらしく、まるで私が言ったみたいに・・・」


そして、さらに新情報。

「だいたい、私は初稿持ってんですよ」


なんと! 


そして、手紙の中でアーノルドが言うには、

「ヨハン・クリストフ・ペープシュとか、
ヘンリー・パーセルとか、
Dr.グリーンとか、
ヘンデルの初稿たくさん持ってるんだけど

(強烈なコレクター臭)


それで、その中のひとつをみると

(タイトルは、はっきり書かれていない)

初稿の欄外に

「xx によるバリエーションのレッスン」

って書かれていて、しかし その肝心の名前の
ところが黒く消されていて、あとから別の筆跡で
「Mr.ヘンデル」と改ざんされている、とのこと。

つまり、


 ヘンデルさん
XXXXXXX  によるバリエーションのレッスン



・・・まじで?笑


(ってか、それと本件と何の関係が?)




さておき。

アーノルドの「ヘンデルが盗作した」という根拠をまとめると

1)そんな怪しい改ざんはありえない。
2)「愉快な鍛冶屋」は、ヘンデルっぽくない。
  (思いっきり主観)
3)ヘンデルさんの、と改ざんされていた楽譜を見ると、
  超~子供っぽくてダサい曲だったから、これはたぶん
  ヴァーゲンザイル作。(おいおい)
4)歌詞と節がばっちりあっているし、これは
  ヘンデルが生まれる前に書かれたもの(にちがいない)←また主観

それに

5)「フランス・アンソロジー」って本に載ってた他の
フランス民謡曲はちゃんと出所がしっかりしている。
で、そこに一緒に載ってた「年たち過ぎ去り」も、
クレマン・マロの「年たち過ぎ去り」ということで
あってるに決まっている(ヘンデルの名前には、
触れてなかったし)。

しかし、アーノルドよ。クレマン・マロは作詞者。
今、それ関係ないから。


あと、あんた何いってるかよくわかんないから。
主語を書け! 主語を!w




そして、話はそこで終わらない。


その記事を読んだカミングスさんが、
再度ミュージカルニュースへ投稿。笑


ミュージカルニュース的には、もう

「本件にミュージカルニュースは関係ありません」

とかつけているww


さておき。

そんで、カミングスさんがなんて言ってきた
かというと、要点としては

1)私以外に2人、あんた(アーノルドさん)の
発言聞いてた証人がいるけど~ ま、いいよ。
いちおう謝っとく。あなたの意見は「盗作したのは
ヘンデル」ね。おっけ。了解。

と半端な謝罪したあと、カミングスさんが続ける。


「言っとくけど『ハープシコード組曲』の初稿持ってるし」


theコレクターバトル&音楽家同士の泥試合~♪


そして、カミングスさんいわく

そもそも 『ハープシコード組曲』を最初に持ってた
人が、作曲家 兼 大学教授の、ウィリアム・クロッチ
(以下、Dr.クロッチ)って人で、カミングスさんの手に
渡った時点で、既にDr.クロッチの手書きのコメントが
初稿に書き込まれていて、(初稿に直接コメント書く
ってすごい発想。額に入れて飾らないのか・・・)

「ヴァーゲンザイル の作品が、ヘンデルによって
編曲された。目に見えて良くなっている! そして
この編曲は『愉快な鍛冶屋』と呼ばれているのだ!」


しかし。

Dr.クロッチが見落としている重大な事実。


ヘンデルが『愉快な鍛冶屋』を発表したのが1720年。
ヴァーゲンザイルは1715年生まれ。
ということは発表当時、ヴァーゲンザイル5歳。

5歳の曲を、ヘンデルが編曲とかありえないだろう。

そして「年たち過ぎ去り」発表されたのは、
ヘンデルの発表から37年後の1757年。

その時点で「鍛冶屋」はドイツ&フランスあたりで
広く流行していたそうなので、ヴァーゲンザイルが
ヘンデルの曲に手を加えた挙句、詩もつけた・・・
と考えるのが妥当。


というのが、カミングスさんの意見。


そして私も同感です。

それに対してアーノルドがまたなんか言ったかは
不明だけど、載ってないとこみるとアーノルドも
納得したのかも。笑



ひとつ気になるのが、カミングスの2回目の手紙で
「『愉快な鍛冶屋』も『年たち過ぎ去り』も共にG調」
とあって、つまりト長調ですね。

しかし本当は、ホ長調ですよね・・・・


探せばもっといろいろ見つかるかも。
でも今日のところはこの辺で。。

別窓 | ぴあの | コメント:4 |
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この記事のコメント
いもコンさんへ
おお~ いもコンさまではないですか~
ご無沙汰です!

当時のゴシップ、面白いですよねw
今の音楽業界でも、こういうのあるんですね。

こういった不明瞭な口論の火元を辿った場合、
意外と「○○さんが、出典を書き忘れただけ」
とかありますねw

そしてそれを巡って大騒ぎ・・・コミカルですw
2016-11-21 Mon 11:21 | URL | ゆにくあ #-[ 内容変更]
タワシさんへ
タワシさん、どもです~

いえいえ~ 私も面白いと思ったので!
興味があることには飛びつきますw

記事は割とすぐ出てきたんですが、なんせ
あの時代の人の話し方。遠まわしな嫌味合戦で
何度も読まないと意味分からないところが
たくさんありました~w

ブラームスの件はよく知らないんですが、極めて
優秀な作曲家間では偶然の類似みたいなのが、
たまに自然発生する。という話も聞きますからね~

なんにしても、タワシさんのおかげでいろいろと
新しいことを知れて面白かったです!ありがとう☆
2016-11-21 Mon 11:18 | URL | ゆにくあ #-[ 内容変更]
こんにちはー(・▽・)
一転二転三転と とっても面白かったです~(>▽<)
今の音楽業界でもこの類のいざこざは絶えませんよねぇ
当事者達はもうお空の彼方っていうのが
色んな方向に考えられてまた楽しいですね♪

それでは また~
2016-11-20 Sun 23:18 | URL | いもコン #-[ 内容変更]
おお~速攻で調べてくださりありがとうございます。よくこんな記事見つけましたね~。読み応え十分でした!
アーノルドの、独断に満ちた(?)主張がスゴイ。。。
私のブログの方でも早速「追記」としてゆにくあさんのこの記事をリンクさせていただきました。
この件、調べればさらにいろいろ出てきそうですね(笑)
ブラームスのハンガリー舞曲も、盗作騒動が持ち上がったことがあったように、この手の話は結構あるのかもしれませんね~。
2016-11-20 Sun 17:46 | URL | 私はタワシ #5eVrhZok[ 内容変更]
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