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ピアノソナタ第11番 変ロ長調 Op.22
2016-11-19 Sat 03:20
Part 5. Piano Sonata in B-flat major, opus 22

第三回目プログラムにおける最後の曲「ピアノソナタ第11番 変ロ長調 Op.22」のレクチャー内容です。この曲の講義は30分ほどですが、説明が4楽章分あるので・・・文字数多めです。途中で何度も何度もピアノを弾きながら説明されているので、出来れば音源を聴いてもらえるとわかりやすいと思います。





「今日のプログラムを締めくくるのは『グランド・ソナタ』Op.22、変ロ長調です。『グランド』な規模の4楽章構成ですね。これは本格的な技巧重視の作品で、恐らく自身がウィーンの宮殿等で演奏するために書かれたものだろうと思われますが・・・まず、こんな風に始まりますよ。(演奏)さて、第1楽章はアップビート(裏拍)で始まり『アレグロ・コン・ブリオ』ですから、溌剌としたアレグロですね。普通のテンポではなく『溌剌と』です。それから、アップビート(裏拍)ですから・・・123(4から演奏開始)・・・非常に難しいですね・・・この(4拍目の)音はテヌートで『12』はスタッカートです。それから、この(と言いながら、ピアノの縁をパタパタパタと叩いてリズムを示し)スネアドラム(小太鼓)のようなリズムです。(演奏)これ自体がモチーフのようで(演奏)これが楽章全体を駆け抜けます。(演奏)ひとつ前にご紹介したソナタは、室内楽的で弦四重奏を引き合いに出しましたが、このソナタは非常に秀逸なオーケーストラ風の表現が大規模に展開されています。きっと、オーケストラ全体によるトゥッティ(総奏)が聴いてとれると思いますよ。では、もう少し演奏してみましょう。(演奏)」

「そして再度、この(上昇していく)音形ですね。(演奏)前半のレクチャーで、既に『マンハイマ・ロケット』についてお話したかと思いますが、これもその良い例ですね。その他としては・・・(マンハイマ・ロケットが使われている作品をいくつか、ダイジェスト演奏)・・・ということで・・・(演奏に戻る)それから、ベートーベンがユニゾンを書くときは誇張表現ですから、高らかに暗唱しています。そして、バスが主導権を握り・・・(演奏)ここは素晴らしいパッセージですね。(演奏)ドミナント(ヘ長調)に到着しました。それから、このパッセージも見てください。(演奏)本当に革命的なピアノテクニックですよね。これまでベートーベンがこんな風に書くのを、いまだかつて誰も見たことがなかったはずです。残念ながら非常に難しいですが・・・(演奏)突然のスフォルツァンドがいくつかあって(演奏)『ピアニッシモ』とありますから、このソナタに出てくるダイナミズムも再度、極端ですね・・・ピアニッシモからフォルテシモまで。前半に聴いたソナタについては、ダイナミズムも・・・普通というか、控えめなレベルでしたが。(演奏)」

「それから、第2主題がユニゾンで現れます。ここで、変ロ長調繋がりの曲についてご紹介したいのですけれど・・・(ハンマークラヴィーア冒頭、演奏)ハンマークラヴィーア Op.106ですね。ですから、この作品は私から見ると・・・ハンマークラヴィーアの『予習』のような感覚です。なぜならこの2作品には、とても重要な関係がありますので・・・この事については、ハンマークラヴィーアの回でもっと詳しくお話しますけれど。とにかく、ここで重要なのはここが『3度(重音)』によって組み立てられているということです。(演奏)そしてフーガ・・・(歌いながら演奏)ということで、このOp.22では3度という音の距離があり、よって旋律も3度で繰り広げられます。(演奏)そして変奏です。(演奏)・・・と、少し不安感が出てきた後、協奏曲的な技巧パッセージへ。(演奏)つくづく外因性の刺激(経験)に基づいて作られた音楽だなと感じます。(演奏)それからこのトレモロ・・・(演奏)まるでティンパニーのロール奏法(細かい連打)のようです。それと、前にも出てきましたが『頻繁に入れ替わる長調と短調』・・・(演奏)そしてナポリタン調の色、ファとソ♭の関係です。(演奏)3度に注目してみてください(歌いながら演奏)まるで本物のハンマークラヴィーア・ソナタのようですね。」

「さて、展開部はとても興味深いですよ。(演奏)・・・このドミナントで止まったら(演奏)・・・ト短調の(ドミナント)です・・・(演奏)その後、事は極めて複雑に発展し・・・擬似的な表現だらけになりますよ。(演奏)この非常にポジティブな印象だった原始的フレーズ(演奏)これが、原始的とはかけ離れたものへ変化しました。なぜなら、ベースに置かれた上昇音形とソプラノの下降音形による対比・・・(演奏)それからこのモチーフ(導入部に出てきた同じ音形との比較演奏)では、全て一緒に。(演奏)たいして何も起こっていないように見えますよね・・・まず♪パタパタパン♪というドラム風モチーフがあって、アルペジオがあって。ですが、私達が本当に注目すべきはバスです。バスに置かれた下降音形が徐々に低くなっていき・・・ミステリアスさを増していきますよ。(演奏)そしてベートーベンは、締めのモチーフで突如、全く違った趣向を見せます。16分音符がこんな風に・・・(低音の下降音形の上に旋廻するソプラノ16音符、演奏)もう一度・・・(演奏)長~いドミナント・・・(演奏)17小節にも渡るドミナントです。そしてフェルマータで閉じますが、こんな風にフェルマータで止まるのは(再現部に移行するまでの間において)ここが最後です。(演奏)そして反復。この後に来る再現部は、非常にトラディショナルな形で、特に驚くような仕掛けはありません。」

「第2楽章は、アダージョ・コン・グラン・エスプレッショーネですから、普通のアダージョではなく。とてもオペラ風かつイタリア風です。拍子記号は9/8拍子ですから、123456789、12・・・ですが、3を基本の単位とするアダージョと捉えるのが妥当でしょう。なので、ゆったりとした3カウントで 123 456 789・・・(演奏)そして、ここの強弱指定は『ピアニッシモ』ですから、つまり『ピアニッシモの中で極めて感情豊かに』ということになり、これはある意味矛盾した指示と言えるでしょうね。・・・とても難しい注文です。以前にもお話しましたが、ベートーベンは『レガートの達人』で、ここにも8小節に渡るレガートのスラーが出てきます。これは、例えばバイオリニスト達が一弦で弾くことが出来ないほどの長さです。しかしそれでも、一弦で弾くような『気持ちで』弾かなければならないということですね。それから、この音楽は何かとても目新しい印象を与えます。当時、他にどのような音楽が流行っていたか、ということをよくよく考えてみるとわかりますが、ベートーベンは音楽界に真新しいスタイルを提供しました。それが『重力』です。完全なまでの重み・・・(演奏)」

「非常に重要な点としては、9/8拍子の拍感を常に基盤として感じながら弾くことです。その(基盤の)上でこそ、旋律は十分に歌うことが出来ますから。また、この発想が後にショパンやリストの好んで使う『テンポ・ルバート』となるわけですが、『クレメンティの両手がいつも揃っているのは、好きじゃない』と発言したモーツァルトをみてわかるように、実はモーツァルトが(テンポ・ルバートについて)ずっと前から言及していたと言えるでしょうね。そんなわけで、これがベートーベンが表現したかった音楽です・・・(演奏)グラン・エスプレッショーネ・・・そして『ソスピーリ』、ため息のモチーフ。それから、この大規模なソナタ形式の『アダージョ』導入部は、こんな風に終了します・・・(演奏)9/8拍子の『鼓動』を感じて・・・とてもミステリアスで、2005年現在においてもなお非凡な響きです。(演奏)すごい不協和音です・・・(演奏)・・・転調して・・・(演奏)この部分では、主題から欠片を取り出して(演奏)さらに小さな破片・・・(演奏)そして、ドミナント(変ロ長調)の間口まで来ました。(演奏)・・・クレッシェンド・・・そしてスビトピアニッシモ・・・(演奏)そして反復(演奏)ここでもまた、リディアンが出てきますね・・・(半音高く変化する部分を強調して弾いて)・・・とても美しいです。」

「第3楽章は、比較的軽めの楽章となります。なぜなら、壮大で交響曲的な第1楽章と、素晴らしい重力を持つ第2楽章の後ですから。そして第3楽章は、とてもハイドン風に幕を開けます(演奏)単純な4~8小節構成のフレーズですが、全くの『純朴さ』だけというわけでもなく・・・(演奏)ほら、このソ♭が『ちょっとした裏切り』ですね。(演奏)続く中間部もまた、新しく革命的です。(演奏)♪らりらりらりらりらっ♪とオーケストラ風のtremolando(トレモロ)です。(演奏)トリオ部分も、またドラマチックですね・・・今メインの部分は弾きましたので、トリオから続けますよ。(演奏)ハンマークラヴィーアの第3楽章を思い起こしてみると・・・(比較演奏)これらがメインの音で・・・(演奏)シューマンですら、自己の軽快なソナタの中でこのフレーズを『拝借』していますね。(演奏)ということで、これがメヌエットです。」

「それからこのソナタは美しいロンド(第4楽章)で締めくくられます。『アレグレット』ですから、速い楽章ではないですね。ほんの少し『春ソナタ(バイオリンソナタ5番)』の最終楽章のようでもあり・・・(比較演奏)またはピアノソナタ4番の・・・(4番最終楽章の冒頭、比較演奏)そしてこの楽章は、というとこんな風です。(演奏)カンタービレの歌唱形式で、それから『オクターブのレガート』というテクニックが出てきますが、これもべトーベンにとって新たな試みです。(演奏)ここの内声は美しく・・・(内声を強調した演奏)ここで初めて第2主題が出てきてますね。(演奏)対位法による展開が非常に美しく、(旋律が)バスとソプラノで交互に繰り返されます。(演奏)それから、交響曲的な部分が始まり・・・(演奏)ごく断片的な主題を使って・・・お互いの旋律を真似し合っています。(演奏)このあたりは、いかにもベートーベンという感じで・・・2連符、3連符そして16分音符です。その後、とても重要な部分に差し掛かります。(演奏)」

「実はこのフレーズ、既にあどけない形で耳にしていますが(演奏)今度は短調ですから、ドラマチックです。(演奏)するとすぐさまトッカータ風の、非常にミステリアスで熱気を帯びた主題へと続いて(演奏)・・・本当に素晴らしい表現ですね。こういったものは真の作曲家にしか書けません。そして、こう続き・・・(演奏)ここは極めてハンガリー風ですが、私は部分的(なハンガリー人)ですからね。笑 (演奏)そしてフーガ・・・厳密には『フーガのようなもの』です。なぜなら(途中から)フーガ進行しなくなりますから(演奏)トッカータへ戻って(演奏)ハンガリー風に!(演奏)・・・と、ここで突然雰囲気が変わり、バスが・・・(バス旋律を歌いながら演奏)・・・ピアニッシモ・・・(演奏)ここも素敵ですね。トリルを書き起こしたような感じです。とそこへベートーベンは、準備もせずにこっそりと主題を登場させます。(演奏)主題はビオラとチェロに受け渡され(演奏)そして第1バイオリンが引き継ぎますが・・・(オーケストラにおいて)もちろん全てのパートは平等ですけれど。それでもやっぱり、最後は第1バイオリンがリードするんですよね笑・・・C'est la vie(人生なんて、そんなもの) (演奏)変奏があり・・・(演奏)コーダについて触れると、メヌエットのトリオと関連性があって・・・(演奏)・・・とこれがOp.22。私が今この曲について言えることは、これで全部かなと思います。」

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