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ピアノソナタ第9番 ホ長調 Op.14-1
2016-11-05 Sat 06:55
Part 3. Piano Sonata in E major, opus 14 no. 1


引き続き、第三回目のプログラムより「ピアノソナタ第9番 ホ長調 Op.14-1」のレクチャー内容です。この曲の講義は30分弱です。ところで、書き溜めたものが尽きたので、(ちょっと中途半端ですが)ここでいったん1週間くらい休憩を挟むと思います。譜読みにも集中しなくてはいけないので(笑 

途中で何度も何度もピアノを弾きながら説明されているので、出来れば音源を聴いてもらえるとわかりやすいと思います。




「それでは、全く異なった世界へ移動しましょう。同時期に書かれた作品、Op.14ソナタです。この作品も『軽いソナタ』『やさしいソナタ』と一般的に認識されていますが、私はその意見に賛同できないと言わざるをえません。なぜなら、Op.14は恐ろしく難しいと思いますから・・・演奏するのも、その解釈も。最初の作品(Op.14-1)はホ長調で、3楽章構成。まずは導入部を演奏してみましょう。(演奏)・・・そして、導入部の反復となります。お聴きになってわかったと思いますが、全く異なった世界観ですね。非常に・・・ミステリアスです。それから、ベートーベンはこの曲の弦四重奏版も書きました。半音上がった『ヘ長調』です。そして非常に興味深いのが・・・もちろん2曲は全く違う曲ですが、なぜかこのソナタにも常に弦四重奏を感じるのです。第1バイオリンが誘導し、そして伴奏のモチーフは常に8分音符分欠けていて『 ぱぱぱ、 ぱぱぱ、 たたた、 たたた』という風に、軽いモチーフです。(演奏)それから、頭の4音を取り出しすと・・・(メロディーの単音演奏)・・・という感じですが、これを移調させてみると・・・(*恐らくOp.110からの抜き出し演奏)・・・これ知っていますよね。そして、もう一度移調し直すと・・・(演奏)・・・うりふた・・・いや、うっかりでしょうね。」

「とにかく。(演奏)そして次のパッセージが、どこからともなく突然現れて・・・(演奏)聴こえると思いますが・・・第1バイオリン、第2バイオリン、ビオラ、そしてチェロ。(再度演奏)4つの楽器ですね。そして、チェロの最後の部分だけ・・・(演奏)違い・・・ラ♯です。とても美しいですね。ここは機械的に弾かない方が良いと思います。歌うように、空想するように。(演奏)美しい4声部連結ですね。内声は・・・(演奏)と、ここで転調していくわけですが、第1主題はだんだんと、より動揺した様子で。(演奏)とても挑戦的な不協和音。そして、ドミナントへ向かっていきます。(演奏)・・・この前のふたつのソナタ(Op.49)について『ほとんどダイナミズムの指示がない』とお話したと思いますが、この作品はちょうどその真逆です。常に、とても几帳面に注意書きが書き込まれています。

p(ピアノ)とフォルテのコントラスト、そして突然のアクセント。そしてここ、初めてのフォルテシモまで。(演奏)新しい主題がドミナントのロ長調で始まります(演奏)単旋律ですね。寂しげなたったひとりの声・・・しかしその声は、全音階と半音階の進行により美しく色づけられています。(演奏)そして、弦四重奏からその他の楽器が加わり・・・(演奏)・・・また第1バイオリンだけになりました・・・(演奏)ところで、ベートーベンはここに『ポルタート』と書いていますから、それを意識して。さらにビオラがすぐに同旋律を引き継ぎますが、今度はレガートです。(演奏)・・・チェロ・・・(演奏)・・・そしてチェロ、第1バイオリン。(演奏)そして、ここからは美しい新主題です。(演奏)クレッシェンドしたい誘惑にかられると思いますが・・・ベートーベンを信じてクレッシェンドなしですよ。ここにクレッシェンドが欲しければ、そう書いていますからね。書かれていないところでは、そう演奏してはダメですよ。笑」

「さて、次は非常に面白いパッセージが出てきます。上声はp(ピアノ)、スフォルツァンドもpの中で。そしてバスには、この感嘆符です。『ダラララン!!』 ・・・バスはとても怒っていますね。(演奏)・・・と言うのもありですが。笑 しかし、とにかく。(演奏続行)それぞれの声部に別々のダイナミズムで、このソナタには常にこういった『対』の感覚がつきまとい、それはまるでシューベルトの音楽へ向かっているようです。頻繁に入れ替わる長調と短調・・・(演奏)・・・短調!(演奏)・・・長調!(演奏)そして、またもなにやら『グラツィオーソ』、優美なテーマです。(演奏)・・・とてもドラマチックな『ポーズ(一時停止)』ですね。この一瞬の静寂はとても重要です。みなさん音楽というものをわかっていると思いますが・・・ベートーベンの(こういうところ)・・・(はっきりとポーズを置いた演奏)そしてここは、最初に出てきた主題のこの旋律(演奏)これがバスに置かれ(演奏)完全に違う雰囲気を醸し出しています。」

「これが導入部の最後で、展開部はトニックで始まりますが、すぐに短調へ転調します。(演奏)・・・イ短調です。そして、ちょっとこれを紹介しないわけにいかないのですが・・・シューベルトの『ピアノとバイオリンのためのソナチネ イ短調』ご存知でしょうか・・・(D385冒頭を演奏)・・・(そして導入部の演奏)・・・酷似、などと言ってはいけませんよね・・・(演奏)シューベルトっぽいですよね。笑 そして、新しい旋律はたくさんのオクターブをレガートで。これはハイドンやモーツァルトの使わなかった、ベートーベンの新しいピアノテクニックです。(演奏)さて、またしてもドミナントの間口まで到達しました。帰宅準備です・・・とても長いペダルポイント(持続低音)ですね。(演奏)・・・もう一度。まだドミナントですよ。(演奏)『帰宅』は再現部と同時に起こります。勇壮なフォルテと共に、肯定的に。ところで先ほどの、ドミナント上のペダルポイントは10小節にも及びます・・・非常に長いですよね。

再現部もまた、機械的ではありません。もう一度、最初のところを弾いてみますね。(導入部冒頭を比較演奏)・・・(それに対して)今度は和音で、とても勇壮に!(再現部演奏)・・・そして今度は、こんな風に・・・(演奏)本当に素晴らしいですよね・・・ベートーベンは本当に、いつも再現部にサプライズを用意していると思います。調の関係を見てみると・・・ホ長調とハ長調ですが・・・ハ長調はピアニッシモで弾くと、ミステリアスになりますよ。(演奏)ここからは通常通りですが、一番最後のところのコーダは(演奏)・・・ここは非常に印象派的だなと思ます。どこか古典の世界にはフィットしていないというか・・・なぜなら、キラキラと揺らめく光が見えるので。高みに向かって消え去っていくような、とでも言おうか。」

「第2楽章は『アレグレット』の指定があり・・・トニックの短調、ホ短調ですね。(ふぅ~という呼吸から、演奏)悲劇とは言いませんけれど、暗くてくすんだ色彩ですね。時代錯誤ではありますが、私はこれをブラームス的音楽と呼びます。(ブラームスの)インターメッツォを思い出すんです。(演奏)たぶん、単にホ短調だからかもしれませんね。笑 ですが・・・♪たーらら たーらら♪ (楽しそうで、しばし遊び弾きの雰囲気 笑)・・・このスウィングするシチリアっぽい感じ、イタリア風のリズム。とにかく、複縦線の後はやや中世風な雰囲気です。(演奏)プラガール・ハーモニーの数々・・・(演奏)むき出しのオクターブがあり・・・そして同じフレーズが、1オクターブ上で繰り返されます。(演奏)不協和音が響き・・・ベートーベンのコンテンポラリーな部分が歌っていますね。(演奏)そして次は、高い『ミ』の上に・・・クレッシェンド!

・・・と言われても、ピアノの機能的に不可能ですよね笑 まだバイオリンだったら 『ミィィィイイイ~』と出来ますけれど、ピアノで出来ることと言ったら、そこで立ち上がるくらいです。こんな風に(演奏)・・・ですが、少し悪趣味です・・・2005年でもなお笑 とにかく、低い方の『ミ』にはピアニッシモと書かれていて、高い方にははっきりと『クレッシェンド』と書かれています。ベートーベンは理想家ですから、後にもいくつかの作品で同じような指示を書いていますが。つまり彼にとって、可能かどうかなんてどうでもいいんです。大切なのはあなたの想像力です。そこからトリオに移ります。(演奏)ここの『ミ』と『ド』の関係は、第1楽章にも出てきましたね(演奏)3~4つの、とても美しく明瞭なパート分けを聴いて取れると思います。またしても、弦四重奏を思い起こしてくださいね。それから、ダ・カーポ。そしてアレグロが繰り返されて、コーダ。(演奏)・・・ピアニッシモ・・・そして心音3つ。これで終わりです。(演奏)」

(続けて第3楽章の冒頭を演奏)

「最終楽章はロンド 『アレグロ コン モード』・・・ですから、心地よく気楽な感じのアレグロですね。それと ”attaccato"ですからブレーキなしに、(前の章で)止まらずに、ですね。私は、ベートーベンが心理的影響を考慮しながらソナタを書いている、ということをとても重要だと思っています。ですから、各楽章をばらばらに捉えず、全楽章を統一して捉えて欲しいなと思います。ソナタはいつも、第1楽章の第一音に始まり第3楽章の最終音に終わりますから、途中で一息つく場所を作るべきではないですね。・・・ということで大切なのは、先ほどの心音から・・・(第2楽章の終わりと第3楽章の導入部を繋げて演奏)アップビート(裏拍)で再開し、3、4、1、2、3・・・ガボットのような。バスーンを思い起こしていただけると良いかと思いますが・・・(演奏)繰り返される『ラ』のオクターブがあり、突然の下降『スビトピアノ』です。(演奏)そしてチェロ・・・(弦四重奏ですから)下降して上昇するスケールの中で、その他の楽器が飛び込んできます。さて、ドミナントまで来ました。そして新しい主題が出てきますよ。ん~、見た感じは単純そうですが・・・まずここは質問と応答ですね。(演奏)・・・そしてその変奏・・・(演奏)・・・フェルマータ・・・そしてロンド主題が回帰します。(演奏)今度は同じフレーズを短調で。さらに転調した先は・・・予想外にもト長調です。今、私達はト長調のドミナントにいます。(演奏)

ここは非常にドラマチックなフォルテと、フォルテの中でのスフォルツァンドです(演奏)その後、続く部分は3連符で。嵐のようです。(演奏)・・・協奏曲のように!(演奏)・・p(ピアノ)・・・(演奏)・・・ドミナント・・・そして回帰・・・というように、この章は純潔なように見えて、実はいろんな要素が詰め込まれています。とっても素晴らしいですね。ロンドの変奏がいくつかあって、シンコペーションが使われている変奏ですとか(演奏)・・・それで、ここが唯一のフォルテシモ・噴火!(演奏)・・・フェルマータで・・・さらに先の変奏へ(演奏)・・・そして楽章の終わりへ・・(演奏)Op.14-1はこれで終わりです」

「このようにOp.14-1は素晴らしい作品ですが、どうにも一般的にはあまり認められない曲という風に感じます。理由のひとつは、(悲愴・月光・テンペストなどの)ニックネームがないからですが(笑) それと・・・ピアニストたちが選曲する際に、『成功をもたらす曲』ですとか『どの作品に成功要素があるか』などという視点で決定していたとしたら。Op.14-1のような素晴らしい作品・・・これらには、残念ながらそういう類の成功要素はありません。ですが、ベートーベンはそんなこと気にしませんでした。ベートーベンが作曲し続けたのはただ、内から湧き上がる音楽的衝動に突き動かされただけです。誰かを感服させるだとか、達成感だとか、社会的名誉のために書いていたのではないと、私は思います。ですから、もしあなたがこの作品の良さを信じるというのなら、是非弾いて欲しいと思います。本当に素晴らしい作品です。」
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この記事のコメント
影法師さんへ
影法師さん、こんにちは!

>他の人に「自分も弾いてみたくなった」と言われたのですが、

おお~ 最高の褒め言葉ですよ、それは。
大学生で弾かれたということは・・・ずーっと
ピアノ人生ですか? 尊敬☆☆☆

そして、この曲を小中学生が! 中学生は
まだわかりますが、小学生は驚きました。。
とはいえ子供の場合、(大人ほど)先入観もなしに
弾いて、それが功を奏したりしそうなイメージです。

シフさんほどの方の口から「難しい」という言葉が
聴けると、それだけでホッとしますよね。笑 また
実際に弾かれた曲が多いと、ご自分の感じたことと
比較出来たり・・・シフさんのお話が何倍も面白いと
感じるでしょうね♪ いいなぁ~笑

>これからもこのブログ、時々拝見させて頂きますので、どうぞよろしくお願いいたします。

こちらこそですよ。いつでも遊びにいらしてください☆
2016-11-07 Mon 00:16 | URL | ゆにくあ #-[ 内容変更]
ありがとうございます。
はい、全楽章弾きました。非常に楽しかったし、他の人に「自分も弾いてみたくなった」と言われたのですが、自分では自身喪失しました。
というのは、この曲はちょっと上手な小中学生(音大行くような人でなくても)が弾いて(弾かされて)いたりする曲で、そんな曲を難しく感じる自分はどれだけ下手なのだろうと(当時大学生でした)……。
この曲に限らず、「世間では比較的易しい扱いされているけれども、自分ではとても難しいと感じている曲」を、シフさんがことごとく「難しい」と言われているので、個人的にはかなり安心しました(笑)
更新をしばらくお休みされるとのことですが、ゆっくり楽しみにさせて頂きます、らこれからもこのブログ、時々拝見させて頂きますので、どうぞよろしくお願いいたします。
2016-11-06 Sun 22:20 | URL | 影法師 #-[ 内容変更]
影法師さんへ
影法師さん、はじめまして(良いHNですね)。
コメントありがとうございます!

>transpose という単語を「置き換える」と訳されていますが、この語は「移調する」という意味の用語かと思います。

おお(笑 確かにおっしゃるとおりです。転調と移調の違いをよく理解していない証拠ですね笑 こういったご指摘はとても嬉しいです。ありがとうございました、すぐに訂正しておきます!

そしてこの曲、弾かれたことがおありなんですね!(シフさんもおっしゃっていますが)ダイナミズムが目まぐるしく、とても難しそうな曲だと思いました。全楽章弾かれたんでしょうか? 私はもちろん、高度すぎて弾いたことありませんけれど、「怒っている左手」のところ、わくわくして大好きです。笑

それから、このような長文を毎日読んでくださっていたということで、とても嬉しく思います。ちょっとここで休憩してしまいますが・・・またすぐ再公開しますので、よろしければまたお目通しいただければ☆
2016-11-05 Sat 13:18 | URL | ゆにくあ #-[ 内容変更]
はじめまして。影法師と申します(mixiで使っている名前です。ブログはやっていません)。
「私はタワシ」さんにこの記事を教えて頂き、毎日楽しみに読ませて頂いています。
さて、本日の記事、transpose という単語を「置き換える」と訳されていますが、この語は「移調する」という意味の用語かと思います。
急に現れて差し出がましいことを失礼とは存じますが、ご参考になれば幸いです。

なお、この曲は私自身弾いたこともあり、大好きな曲なので特に楽しみに読ませて頂きました。
今後の更新も楽しみにしております。
2016-11-05 Sat 06:05 | URL | 影法師 #-[ 内容変更]
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