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ピアノソナタ第2番 イ長調 op.2-2
2016-10-27 Thu 06:47
Part 2. Piano Sonata in A major, opus 2 no. 2


引き続き、第一回目のプログラムより「ピアノソナタ第2番 イ長調 op.2-2」シフさんのレクチャー内容をお送りします。前回の音源は40分にも渡る長い講演でしたが、今回の内容は20分以下です。少し日本語に変換しづらいところがあったので、そのあたりは意訳にしてありますが、ニュアンス的には大きくは逸れていないと思います。。それと、シフさんがあまりにも同じ言葉を何度も使うので(笑)、割り当てるべき日本語のバリエーションが尽きた部分もありました。ピアノを弾きながら説明されているので、出来れば音源を聴いていただけるとわかりやすいと思います。








「雰囲気はうって変わり、とても明るいイ長調。こんな風に始まります(と冒頭を弾く)。とても愛らしく、まるで森の中にいるようで『クックー クックー』といった鳥のさえずりのようにも感じますし『問いかけ』と『応答』のようでもあります。ここ一帯が大きなクエスチョンマークのようではありませんか? そして、音楽は本題へと移ります」

(第一楽章導入部の演奏)

「・・・と、ここまでが導入部です。素晴らしく新鮮なソナタで、滅多に演奏されないのは残念なことです。理由はわからないけれど、たぶん難しいからでしょうか・・・これはとても難易度が高い作品だと思います。それから重要なのは、op.2でベートーベンが計画的に、最初の作品(ソナタ1番)をドラマチックに、2つ目(2番)は即座に叙情的かつ柔らかに、そして3つ目(3番)はご存知のとおり非常にみごとな、まるでピアノ協奏曲のようなコンサート・ピース、なおかつユーモアに溢れた作品に仕上げた点です。ですから(op.2を総合的にみると)ドラマ・叙情性・そしてユーモアという構成のトリオ(3部形式)になっているとうことですね。だからこそ、私はこのop.2の3作品をバラバラに分けたりせずに順番に弾きたいと思いますし、そうすることにより、これらの作品郡のもつ多様性をみなさんにご紹介出来るかなと思っています。バラバラに弾いてしまったら、はっきりと意図が伝わりにくいですから。」

「まず、主題からの転調部分には極めてずば抜けた素晴らしさがあります。なぜなら、この部分のベートーベンはハイドンを振り返ったりせずに、むしろシューベルトに進むべき道を示しているかのようだからです。まず以下の点に触れておきたいのですが・・・シューベルトは、ベートーベンをとても崇拝していました。特に後期のシューベルトの作品をみると、初期のベートーベンの作風によく似ている部分がありますね。もちろん、ベートーベンの後期のソナタはまだ発表されていなかったので、それらをシューベルトが知ることは出来ませんでしたけれど、初期の作品については知り尽くしていました。そして・・・

(と言ってまず和声進行、そして楽譜どおりに転調部分を演奏)

「以前、ドナルド・フランシスという素晴らしい音楽理論家が教えてくれましたが、この部分は後期の作曲家たちにとってとりわけ重要な、素晴らしい転調方法の具体例のひとつとして数えられるということです。

そして、その次に現れるのが(・・・わずかな演奏後)これはベートーベンが初めて『運指』を楽譜に記載した場所のひとつですが、これがとんでもない運指で全くもって実行不可能です。ベートーベン時代の鍵盤は、やや幅狭だったので出来たのかもしれませんけれど、私は試してみようとも思わないですね笑。もちろんベートーベンのことは本当に尊敬していますから、彼の指示はひとつ残らず守るように心がけていますが・・・この運指はないですよ、申し訳ないけれど。私にとってアイドルであり、よき指導者のひとりでもある名ピアニスト、ルドルフ・サーキンもまた、ベートーベンの残した全てのことを真摯に受け止めてましたけれど、その彼はこのソナタを一度も演奏しませんでした・・・この運指のせいで。ですが、演奏しないのはとてももったいないことだと思います。たったそれだけのためならね笑」

ええとそれでは、時間切れになりたくはないので・・・。ここまでに導入部をお聴かせしましたね。続く展開部はひどく複雑です。少し弾いてみましょうか。(展開部を少し演奏)かなり叙情的でドラマチックですね。そして(続きを少し弾いて)・・・もうほんとに・・・これだから、みなさん演奏されないんですよね、本当にすごく難しいです。さておきこの後はまた戻り、そこからは特に変わったことはありません。」

「第2楽章も、本当に非凡な素晴らしさです。ソナタ1番の(第2楽章の)場合は、むしろ型どおりのアダージョでしたが、この第2楽章は『ラルゴ・アッパッシオナート』という指示です。後に手紙やメモの中で語っていますが、ベートーベンは音楽用語のイタリア語表記に対して、徐々に不満を持ち始めていました。使いづらいと言ってね。イタリア語がしっくり来なかったんですね。ですから後になって、それらをドイツ語に訳して使い始めました。それからのちメトロノームを発見しますが、ベートーベンはとりわけ楽譜に記載する演奏上の注意書きについて、(どうしたら自分のアイディアをわかってもらえるだろう)と、いつも気にしていました。」

「とにかく、『ラルゴ』はアダージョよりもさらに広々とゆったりしていることは、音楽用語の規定からも理解していますね? そして『アッパッシオナート』は情熱的に、という意味です。この並外れた素晴らしさをもつ第2楽章は、弦楽四重奏と重ねることも出来ますが、さらに発展させて考えてみると・・・まずバスは16分音符でその後16分休符があり、チェロかコントラバスのようなピチカートが出てきます(といって演奏)。弦楽器が弾かれているような感じを想像出来ます。そしてその上をいくのは、3つの弦楽器・・・とも取れますが、私には3台のトロンボーン、3台のミュートのかかったトロンボーンのように感じられます。これらが合わさると真に素晴らしい響きです。彼はセンプレ・テヌートと記していますから、(和音進行は)常に繋げてレガートで、バスはセンプレ・スタッカートですから、全てを切り離します。しかし、これらを鍵盤上で再現するのは大変難しいことです。なぜならペダルが全てを台無しにしてしまいますから。・・・つまり足(ペダル)ではなく、指だけで成し遂げなければなりません」

「考えてみれば(ハイドンやモーツァルトと比較した場合)これら響きは全くもって新しいものです。より響きが豊かになり、比率配分も異なっています。ベートーベンはダイナミクスも変更して音量的にも発展していき、まるでブラームスのようにも私には思えます。ピアニッシモからフォルテシモへと膨らみ(音の)豊満さをつかさどるエレメントもあり・・・ですからこれは音楽史において、とても新しい発想と言えるでしょう。

ところでブラームスもまた、ベートーベンを大尊敬していましたから、例えばチェロソナタ ヘ長調・・・(部分的にブラームスの演奏)この部分のフレーズなど、巧妙に『拝借』していますね。もちろん、何も悪くはないに違いないとは思いますが。この章の後、アレグレット・スケルッツォの章が登場します。非常にチャーミングで優雅です。」

(第3楽章の冒頭を演奏)

「シューベルトはこの楽章を大変好んだと言えるでしょうね。なぜなら、シューベルトの後期ソナタ イ長調をみてみると・・・(シューベルトのソナタの一部と、3楽章のさわりを比較演奏)ひどく明らかだとは思いますが、ブラームスほどの泥棒ではないですね笑 この章のトリオは同主音ですが、短調です(イ短調)。ここには、またしても密かな『ざわつき』が隠れています。そしてダ・カーポ、スケルツォ・・・と続き終わります。」

「最終楽章はロンドで副題はグラツィオーソ、とても優雅に。という意味です。この最終楽章はベートーベンの書いた中で最もエレガントな作品のひとつです。ベートーベンについてひとつ言われることは、彼の音楽は重量級だということで、確かにそれはそうですが、実際の彼は実に多面性のある複雑な作曲家で、様々なサイズの、いろいろな顔を持っていました・・・たとえばこの曲のように(第4楽章を途中まで演奏)。それからこの楽章を聴けば、『ベートーベンは、旋律の美しい作曲家ではない』と主張する一部の人々が馬鹿げてみえると思います。ベートーベンが書こうと思えば、水平に流れる長い旋律を生み出すことが出来ます。ただ、彼は常にそうしたかったわけではないんです。」

「そして、この章はとても声楽的ですね。音程も幅広く、まるでオペラ歌手のようです。いわばモーツァルトの書いたオペラ、コジ・ファン・トゥッテのフィオルディリージ(ソプラノ)のような広い音程、つまりこれはそういったオペラに対するオマージュともいえます。この優雅なロンドの中で、中間部にあたる短調・・・ここを私は『美女と野獣』と呼んでいます。これが『美女』(演奏)・・・そして『野獣』(演奏)。ほとんどパロディーか何かのようで、もちろん私達にショックを与えようとしたわけではないけれど、ベートーベンはここに、出来る限り素晴らしいコントラストを作り出そうとしました。大きなアクセントを用いて、ダイナミズムは先のピアニシモと対照的にフォルテシモ、さらにとても厚みのある和音を使っています。また、ベートーベンのスタイル・個性として・・・(すこし演奏) モーツァルト、あるいは後期のシューベルトのような透明さはみられず、とても力強い調子で書かれています。」





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